会社法改正【会社法の一部を改正する法律】 (2021.11.12)
「会社法の一部を改正する法律」(2019年12月11日公布)にて、次の点について 会社法が改正されました。
法務省のパンフレットでは、以下のように説明しています。
会社をめぐる社会経済情勢の変化に鑑み、株主総会の運営及び取締役の職務の執行の一層の適正化等を図ることを 目的とするものです。
これにより、日本企業のコーポレート・ガバナンスが更に向上し、日本企業の競争力や日本企業に対する内 外の投資家からの信頼がより高まり、ひいては、日本経済の成長に大きく寄与するものと期待されています。
●2022年施行予定
(公布日から3年6か月以内)
8.その他(会社の支店の所在地における登記の廃止)
●2021年3月1日施行
(公布日から1年6か月以内)
3.取締役の報酬に関する規律の見直し
4.会社補償および役員などのために締結される保険契約(D&O保険)に関する規律の整備
5.社外取締役に関する規律の見直し
6.社債の管理に関する規律の見直し
7.株式交付制度の創設
8.その他
まず、「電子提供措置」について説明します。
電磁的方法により、株主が情報の提供を受けることができる状態に置く措置のことです。
Webサイトでの掲載などがこれに当たることになります。
「株主総会参考資料等」とは、新法325条の2第1項かっこ書によると、
②議決権行使書面
③437条の計算書類および事業報告
④444条6項でいう連結計算書類
を指します。
電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社の取締役は、株主総会の招集通知を書面で行う必要がある場合 (会社法299条2項各号)には、
◆株主総会招集通知の書面による通知を発した日
のいずれか早い日から、株主総会の日後3ヶ月を経過するまでの間、新法325条の3各号に掲げる情報について、 電子提供措置を行わなければならないとしています。
ここで、電子提供措置をとる会社は、株主総会の招集通知について修正が入ることについて触れておきます。
新法325条の4第1項は、電子提供措置をとる場合には、会社法299条1項の定める招集通知の期限について 公開会社・非公開会社の区分を問わず一律に2週間と定めています。
電子提供措置をとる場合には、 株主総会の招集通知の送付期限について修正が入ることに注意が必要です。
電子提供措置制度を採用する会社について、インターネット等へのアクセスが困難な株主の保護も目指し、 「書面交付請求」の制度を認めました(新法325条の5)。
電子提供措置期間中に電子提供措置の中断がある場合、次の4つのいずれの場合にも該当する際、 電子提供措置の中断が、電子提供措置の効力に影響を及ぼさないとしています。
①電子提供措置の中断が生ずることにつき株式会社が善意でかつ重大な過失がないこと又は株式会社に正当な事由があること(新法325条の6第1号)
②電子提供措置の中断が生じた時間の合計が電子提供措置期間の10分の1を超えないこと(同条2号)
③当該期間中に電子提供措置の中断が生じた時間の合計が当該期間の10分の1を超えないこと(同条3号)
④株式会社が電子提供措置の中断が生じたことを知った後速やかにその旨、電子提供措置の中断が生じた時間及び電子提供措置の中断の内容について 当該電子提供措置に付して電子提供措置をとったこと(同条4号)
近年、1人の株主が大量に議案を提出するなどの株主提案権の濫用ともいうべき事態が発生しており、このような濫用的な株主提案権の行使について 歯止めが必要な状況となっていました。
そこで、今回の改正では、株主の提案できる議案の数について、10個を上限とするなど、濫用的行使を防止する対策がとられました。
ということを定めています。
すなわち、株主が一つの株主総会において議案の通知を請求することのできる議案の数は10まで、ということになります。
なお、議場において提案する議案の数に制限が加えられたわけではないので、この点は注意が必要です。
議案の数の数え方については、新法305条4項各号が規定しています。
まず、役員等の選任、役員等の解任、会計監査人の不再任については、議案の数にかかわらず1個の議案とみなされます(新法305条4項1号、2号、3号)。
なお、「役員等」とは取締役、会計参与、監査役、会計監査人の総称とされています(新法305条4項1号かっこ書)。
次に、定款変更に関する2以上の議案については、当該2つ以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議決の内容が相互に矛盾する可能性があるような場合には 1つの議案とみなす、としています。
2つ以上の定款変更が密接に連動しているような場合は1つとみなす、という趣旨です。
これまで述べてきたように、新法305条4項は10を超える数に相当する議案について株主提案権を認めないとするものです。
では、 10を超える数に相当する議案が提出された場合にどの議案を取り上げるか、はどのようにして決めるのでしょうか。
この点について新法305条5項本文は、取締役が定める、としています。
したがって、10を超える数の議案が提出された場合、 原則として取締役が株主提案権の行使を認めない議案の決定を行うことになります。
しかし、株主が議案の提出の際に、 株主が提出しようとする2以上の議案の全部、又は一部につき議案相互間の優先順位を定めている場合には、 取締役は、当該優先順位に従いこれを定める、とされています(新法305条5項ただし書)。
すなわち、議案の提出を行う株主が優先順位をつけてこれを行った場合、優先順位に従って10を超える数に相当する議案を定める、 ということです。
取締役が自己に都合の良い議案を優先的に取り上げるような濫用的な事態を防止する趣旨です。
今回、取締役の報酬に関する規律について、主に以下の4つの内容の改正が行われました。
新法361条7項において、一定の要件を満たした会社の取締役会における個人別報酬の決定方針の策定が義務化されました(①)。
取締役の報酬として株式等を付与する際の株主総会の決議事項に、株式等の数の上限等を新たに加えました。
取締役の報酬として株式・新株予約権を付与するような場合には、付与する株式・新株予約権の数の上限を定めなければならないということになります。
上場会社が取締役に対して株式・新株予約権を報酬として付与する際に、払い込みを要しないこととしました。
旧法下においては、報酬として株式・新株予約権を付与するような場合には金銭の払い込みや財産上の給付等が必要とされており、 その結果として取締役の報酬債権との相殺の方法などにより、株式・新株予約権の付与が行われていました。
今回は改正では、このような迂遠な方法を必要としないように、報酬として株式・新株予約権を付与する際には払い込みを要しないものとしました。
株式・新株予約権の付与において払い込みを要しないものとできるのは、 金商法2条16項に規定する上場株式を発行する会社、つまり上場会社です。
つまり、上場会社で報酬として株式を発行する際には、払込金額及び払込期日を定める必要はなく、 代わりに金銭の払い込み等を要しない旨および募集株式を割り当てる日を決定する必要がある、ということになります。
新株予約権も同様の規律となっています(新法236条3項各号)。
最後に、事業報告の充実が報酬に関する改正としてあげられます。
以下の情報などの開示の充実化が検討されているようです。
② 報酬等についての株主総会の決議に関する事項
③ 取締役会の決議による報酬等の決定の委任に関する事項
④ 業績連動報酬等に関する事項
⑤ 職務執行の対価として株式会社が交付した株式又は新株予約権等に関する事項
⑥ 報酬等の種類ごとの総額
今回の改正において設けられた会社補償の制度、および役員などのために締結される保険(D&O保険) に関する改正について解説します。
まずは会社補償の制度について解説します。
会社補償の制度は、新法430条の2で新設された制度です。
会社法上、 「補償契約」とは、 役員等に対して新法430条の2第1項各号に掲げる費用の全部または一部を 当該会社が補償することを約する契約のことをいいます。
今回の改正において、 会社は役員等と補償契約を締結し、役員等に生じた損害の一部または全部を保証することが明文で 認められました。
会社は役員等と補償契約を締結するには、 株主総会の決議を得なければなりません。
取締役会設置会社の場合は、取締役会の決定で締結することができます。
なお、役員と会社の取引は利益相反取引、自己代理に形式的に該当することが考えられますが、新法430条の2第6項、7項はこれらの規定の適用を排除しています。
役員等のために締結される保険契約についても、明文で新たに規定が設けられました。
まず、役員等のために締結される保険契約(役員等賠償責任保険契約)とは、いわゆるD&O保険のことであり、 会社が保険者との間で締結する保険契約のうち、役員等がその職務執行に関して責任を負うこと、または責任の追及にかかる請求を受けることに よって生ずることのある損害を、保険者が補填することを約するものであって、役員等を被保険者とするものをいいます。(新法430条の3第1項)
役員が職務執行の結果、会社や第三者に対して責任を負うことになったような場合に、保険者が役員に生じた責任を補填するものです。
会社は、役員等賠償責任保険契約の内容を決定するには、株主総会の決議によらなければならないとされました。(新法430条の3第2項)
取締役会設置会社の場合には取締役会により、役員等賠償責任保険契約の内容を決定することができます。
改正における社外取締役に関する規律の変更点について解説します。
社外取締役に関する主な変更点は2つあります。
①業務執行の社外取締役への委託に関する規律の見直し
②社外取締役設置の義務付け
まず、 業務執行について社外取締役へ委託した場合の扱いについて、規定が新設されました。
旧法下においては、社外取締役が業務を執行した場合、社外性を失うこととなっていました。
今回の改正では、一定の要件のもとでは業務執行をしても社外性を失わないこととされました。
業務執行による社外性の喪失により、 社外取締役が期待されている行為をすることが妨げられることがないようにする必要性が指摘されており、これに対応したものです。
新法348条の2第1項は、
②その他取締役が会社の業務執行をすることにより株主の利益を損なうおそれがあるとき
にはその都度、取締役(取締役会設置会社の場合は取締役会)の決定により、当該会社の 業務執行を社外取締役に委託することができる、と定めました。
マネジメント・バイアウトの場面や、親子会社間取引の場面がこれにあたるものとして考えられ、こうした場面での社外取締役への 当該業務執行の委託が可能となります。
そして、 この決定に従って社外取締役が業務を執行したとしても、2条15号イの業務執行には該当しないものとされています(新法348条の2第3項)。
次に、社外取締役設置の義務化について解説します。
新法327条の2は、社外取締役の設置義務について規定しています。
監査役会設置会社(公開会社かつ大会社であるものに限ります)であって、 金商法24条1項により有価証券報告書を提出している会社(いわゆる上場会社)は、 社外取締役を置かなければならない、とされました(新法327条の2)。
社外取締役の設置義務化により、上場会社については社外取締役による監督体制が敷かれているという意味で、 資本市場の信頼性向上につながることが期待されています。
社債の管理に関して新たな規律が加わりました。主な改正点は、以下の2点です。
①社債管理補助者制度の創設
②債権者集会における債務免除に関する規律の変更
まず、社債管理補助者制度の創設について解説します。
会社法上、社債を発行する場合には、社債管理者を定めたうえで社債管理を委託することが原則ですが(702条本文)、 社債の金額が1億円以上の場合、その他社債権者の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合には、社債管理者を置く必要がないものとされています(702条ただし書)。
今回の改正では、後者の場合、つまり社債管理者を置かない場合について、社債管理補助者を定めることができるとしました(新法714条の2)。
社債管理者と社債管理補助者との大きな違いは権限の大きさの違いです。
社債管理者については、705条1項において「社債権者のために社債に係る債権の弁済を受け、又は社債に係る債権の実現を保全するために 必要な一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する」とされています。
一方で、社債管理補助者は、あくまで新法714条の4に掲げられた行為、たとえば破産等の倒産手続への参加、執行における配当要求や、 委託を受けた契約の範囲内において、705条の掲げる行為を行うことができます。
また、社債権者集会の決議がなければできない行為の範囲も広く(新法704条の4第3項参照)、やはり権限が社債管理者と比べると狭いものとなっています。
次に、社債権者集会における債務免除に関する改正について解説します。
まず、今回の改正において、社債権者集会の決議により、社債に係る債務の全部又は一部の免除をすることができることが明確化されました。
また、社債権者集会における決議の省略についても変更が加えられました。
新法735条の2は、社債発行会社、社債管理者、社債管理補助者、社債権者から社債権者集会の目的事項について提案が行われた場合において、 その提案について議決権者の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示を行った場合には、その提案を可決する旨の 社債権者集会決議があったものとみなす、としています。
これにより、社債権者集会の決議省略が可能になります。
株式交付制度は、 株式会社(買収会社)が他の株式会社(被買収会社)を子会社とするために、自社株式を他の株式会社(被買収会社)の株主に対して交付することを 可能にする制度です。
旧法下では、自社株式対価として他の会社を子会社化する手段は、株式交換がありますが、これは完全子会社化するためのものでありニーズが限られます。
今回設けられた株式交付制度は、完全子会社化を予定していない場合であっても、株式会社が他の株式会社を子会社とするために、自社株式を交付することを認める制度です。
①株式交付親会社は、株式交付計画を作成
②株主総会特別決議による承認を得る
③株式交付親会社は、株式交付に申し込みをしようとする者に対して、株式交付親会社の商号や株式交付計画の内容等について通知
④株式交付に申し込む株式交付子会社の株主が書面で申込み
⑤株式交付親会社は、申込者の中から、株式を譲り受ける者・その者に割り当てる株式交付親会社の株式の数を定める
⑥株式交付親会社は、効力発生日の前日までに、申込者から譲り受ける株式の数を申込者に通知する
⑦通知を受けた申込者は、株式交付子会社の株式の譲渡人となる
⑧株式交付子会社の株式の譲渡人は、効力発生日において、株式交付親会社から通知を受けた数の株式交付子会社の株式を、株式交付親会社に対して給付する
⑨株式交付子会社の株式の譲渡人は、効力発生日において株式交付計画の定めに従い、株式交付親会社の株主となる
まとめると、取得の対価として株式交付親会社が交付できるものは株式交付親会社の株式(必要的)・金銭等(付加可)、であり、取得の対象は、 株式交付子会社の株式(必要的)・新株予約権(付加可)・新株予約権付社債(付加可)、ということになっています。
取得は、株式交付子会社の50%を下回ることができません。
株式会社が、当該株式会社の取締役等の責任を追及する訴えに係る訴訟における和解をするには、監査役設置会社にあっては各監査役、 監査等委員会設置会社にあっては各監査等委員、指名委員会等設置会社にあっては各監査委員の同意を得なければならないこととなりました。
株主が議決権行使書面等の閲覧請求をする場合には、請求の理由を明らかにして行わなければならないものとし、これに対する会社側の拒絶事由を明文化しました。
新株予約権に関する登記事項について、改正により規律が改められました。
募集新株予約権について、募集事項として募集新株予約権の払込金額の算定方法を定めた場合であっても、原則的には、募集新株予約権の払込金額を登記すれば足りることとし、例外的に、登記の申請の時までに募集新株予約権の払込金額が確定していないときは、当該算定方法を登記しなければならないものとしました(新法911条3項12号へ)。
つまり、原則として募集新株予約権の発行の際には、払込金額の登記のみで足り、登記申請時にこれが確定していない場合に限り算定方法を登記する必要がある、ということです。
旧法下において930条から932条で定められていた、 支店所在地における登記制度が廃止となりました。(施行は2023年6月までにされる予定)
新法では、930条から932条が削除されています。
成年被後見人等(成年被後見人、被保佐人、外国の法令でこれと同様に扱われている者)について、取締役の欠格事由から削除され、成年被後見人等の取締役就任についてその手続や行為の効力について、新たに定められました(新法331条の2)。
成年被後見人が取締役に就任するためには、成年後見人の同意を得たうえで成年後見人が承諾することが必要です。
被保佐人の場合には保佐人の同意が必要です。
成年被後見人・被保佐人の取締役の資格に基づく行為は、行為能力の制限を理由として取り消すことができないものと定められ、 行為の効力についても規律が整備されました。
いかがでしたでしょうか。
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