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法律トピックス

「離婚後の共同親権」に関する法改正 (2024.06.21)

現在、「離婚後共同親権」の導入が日本で進められており、2024年5月17日の参院本会議で可決・成立しました。

日本でも共同親権の制度が2026年までに施行される予定です。

 

そもそも親権とは?

親権とは、父母が未成年の子ども(18歳未満)に対して持つ、身分上・財産上の権利・義務のことです。

子どもの養育、監護、教育、財産管理、面会交流、法定手続きなど、その子の心身の健全な育成のために行使されるものです。

現在の日本では、婚姻期間中であれば父母の双方に親権がありますが、離婚後は父母のいずれかが親権を持つことになります。

 

共同親権とは?

「単独親権」:離婚後の親権をどちらか一方の親にだけ認めること

「共同親権」:離婚後の親権が双方の親に認められること

共同親権が導入されると、離婚後も父母の双方で子どもの監護・養育ができます。下記のような基準が想定されています。

  1. 子どものしつけや居住地、財産の管理など、子どもの生活に関わる事項の決定権が父母双方に平等に与えられる
  2. 子どもの住居や進学先などを父母で話し合って決めることになりますが、子どもの食事や習い事などに関しては、同居している片方の親だけで決めても問題ない
  3. 教育方針などで父母の意見が対立した場合は、家庭裁判所がどちらの意見を取り入れるのが妥当なのか判断する

なお、急な子どもの入院や、進学先に入学金を支払う期限が迫っているなどの場合家庭裁判所の判断を待っていると子どもの利益が損なわれてしまうため、このような「急迫の事情」があるときは、例外的に片方の親のみの意見で決められます

 

DVや虐待への配慮

離婚の理由が配偶者のDVや子どもへの虐待であれば、共同で親権を行使すると子どもに危険がおよぶ可能性があるため、単独親権にしなければならない、とされています

ただし、単独親権を維持するには配偶者のDVや虐待の事実を家庭裁判所に認めてもらう必要があります。これには多くの意見・懸念の声が拡がっているようです。

現在の単独親権であれば、離婚後は、DVやモラハラをしていた配偶者から逃れることが可能です。

しかし、共同親権だと離婚後もDVやモラハラをしていた配偶者と子どものことに関して連絡を取り合わなければなりませんので、再びDVやモラハラの被害を受けるリスクが生じます。

 

なお、共同親権が導入されても、あくまでも単独親権との「併用」となります。

「原則として共同親権」ということではなく、あくまで離婚の際の夫婦の合意により決定されます(折り合いがつかず合意ができない場合は家裁が判断)。

【離婚後に共同親権を選んだ場合】

▶日常の行為(毎日の食事、習い事の選択など)

⇒一方の親が判断できる

▶受験・転校・手術・パスポートの取得など

⇒両親の合意が必要

▶緊急手術・DVからの避難など「急迫の事情」がある場合

⇒一方の親が判断できる

 

共同親権を選ぶと、子どもの進学先の決定や手術を受けるときの他、パスポートの取得などの際にも両親の合意が必要です。しかし、子どもの日々の食事や習い事などは、一方の親の判断で決めることができます。

また、子どもの急な手術やDVからの避難など「急迫の事情」がある場合も、子の利益を考えて一方の親のみで判断できます。

 

共同親権の導入が検討されている背景

 実は、現在の単独親権から共同親権へと法改正するにあたり、国内での意見もそうですが、国際的な問題が大きな要因となっています。

海外では多くの国が離婚後の共同親権を認めている

離婚後の共同親権を認めている国が多いとされている点も、共同親権の導入が検討されている理由といえます。

法務省の調査によると、調査対象の24か国のうち、実に22か国が共同親権を認めています。

▶単独親権

日本、インド、トルコ

▶共同親権

アメリカ(ニューヨーク州、ワシントンD.C.)、カナダ(ケベック州、ブリティッシュコロンビア州)、メキシコ、アルゼンチン、ブラジル、韓国、中国、フィリピン、インドネシア、タイ、イタリア、イギリス(イングランド、ウェールズ)、ドイツ、オランダ、スイス、スウェーデン、スペイン、フランス、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、オーストラリア

 

国際的にみて、共同親権が認められていない国は少ないといえるでしょう。国際離婚をする場合、法制度の違いで争いになることが考えられるため、共同親権の導入が検討されているのです。

 

国際離婚における「子どもの連れ去り」問題に対応するため

海外に住んでいる日本人の親と外国籍の親が離婚する場合、日本人の親が子どもを連れて帰国すると、外国籍の親は、わが子に会えなくなってしまいます。このような「子どもの連れ去り」問題に対処すべく、日本は2014年にハーグ条約を締結しました。

ハーグ条約により、16歳未満の子どもを居住地から連れ去った場合は、元の居住地へ子どもを返還することが義務付けられたのです

しかし2020年の欧州議会本会議で、EU籍の親と日本人の親が離婚した際、日本人の親が連れ去った子どもの返還率が低いと指摘されました。

子どもの返還率の低さは、日本とEU諸国の法制度の違いも理由のひとつと考えられ、国際離婚をしても、両親が揃って子どもの養育に携われるよう、共同親権の導入が検討されていると考えられます。

 

共同親権のメリット

共同親権となることで、下記のようなメリットがあるとされています。

両親が共に養育の責任感を持てる(養育費未払いの対策)

父母双方に親権者としての権利が与えられることで、養育に関する両親の責任が明確化されます。これにより、子どもと別々に暮らす片方の親にも、いっそう積極的な子どもの養育への関与を促す効果があると考えられます。

例えば、共同親権により面会交流の途絶や養育費の不払いなどの問題が解決できるのでは、という期待が寄せられています。

また、面会がスムーズに行われるならば、片方の親と疎遠にもならず、子どもの精神的なストレスも軽減される可能性があるでしょう。

ただし一方で、子どもが片方の親に対して過度に配慮したり、面会交流に多くの時間を割くことを強いられたりすると、共同親権が却って子どもの重荷となってしまう可能性もあります。

 

離婚時の親権争いを回避・軽減できる

「父母双方が親権を持つ」という選択肢が認められれば、どちらか一方しか親権を持てない単独親権に比べて、離婚時の親権争いを回避・軽減できると期待されます

一部で問題になっている子どもの連れ去りについても、共同親権を認めることで防げる部分があると考えられます。

 

共同親権のデメリット

一方で、下記のようなデメリットも指摘されています。

親権者間で意見が対立し、養育に関する意思決定が難航する

単独親権では、子どもの教育に関する事項について親権者がすべて単独で決めることができますので、スムーズな意思決定が可能です。

しかし、共同親権では父と母の双方に親権がありますので、常にお互いが話し合って決めていかなければなりません。

従って、教育方針で対立が生じた場合には、スムーズな意思決定ができず、子どもに対して不利益が生じるおそれがあります

 

虐待・DV・モラハラの被害から逃れるのが難しくなる

父母のいずれかが虐待やDV・モラハラを働いており、それが離婚の一因である場合、単独親権であれば離婚によって親子共々逃げられます。

これに対して、共同親権の場合はDV・モラハラの有責者にも親権者の地位が残ってしまい、転居にも話し合いが必要となるため、配偶者と子どもが虐待・DVなどの被害から逃れにくくなる懸念があります

実際には、虐待・DV・モラハラなどがある場合には、必ず単独親権になるとされています。

しかし、裁判所がどのような基準で認定するのかといった点への懸念が根強く、子どもが不利益を受けないように行政や福祉などに充実した支援を求める付帯決議もつけられました。

 

このような裁判所の体制や行政・福祉の支援について、施行までにどこまで整備されるかも課題となっています。